気まぐれ日記

更新は本当に気まぐれです。主にtwitterに書くには長いなと思ったネタを書きます。

自転車はどこを走る?


最近のニュースの話題から一つ。

少し長いです。でも、出来れば時間のあるときにでも読んでみてください。


自転車事故がこの10年で1.3倍に増加していること、中でも対歩行者の事故が4.6倍にも急増していることを受けた、警察庁の「自転車対策検討懇談会」の提言がまとまり、子供が運転する場合や車道が危険な場合は、自転車の歩道通行を認めるように道交法を改正しようという提言が出たそうです。


えっと、今の論理展開についていけた人、居ますか?


もう一度書きます。自転車事故、特に自転車が人にぶつかる事故が増えたので、自転車に歩道を走らせるそうです。


今より歩道を走る自転車が増えたら、余計に自転車と人がぶつかる事故が増えるっちゅうねん!!

もう、めちゃくちゃでしょ。。。


この提言、何でこんな無茶苦茶な論理展開をして、現状と変わらないと思われる自転車の歩道通行を提言しているのかと言うと、どうも裏があるみたいで、下のメルマガを発行している自転車ツーキニスト(通勤する人の意)として業界では有名な、TBSプロデューサー疋田氏による問題点の指摘や裏話により、それに気付いた自転車乗り達の猛反発を買っています。

以下、提言の問題や裏話を掻い摘んで書きます。


提言については安全・快適な交通の確保(警察庁)のホームページに“「自転車の安全利用の促進に関する提言」について”というタイトルでPDFファイルで置いてあります。

あまりに突っ込みどころ満載で面白いので、時間のある人は見てみてください。

但し、「概要」と「要旨」には問題となっている部分がごっそりと抜けてるので、見てもしょうがないです。。。


また、疋田智の「週刊 自転車ツーキニスト」 | melma!のリンク先からの一連のバックナンバーで、今回の騒動のきっかけとなった指摘が書かれているので興味のある人は見てみてください。


ちなみに自転車って最初から歩道を走るもんじゃないの?って人のために簡単に説明すると、自転車は道交法上は基本的に車道を走る事になっていて、自転車通行可の標識のある歩道に限り、通っても良い事になっています。法律上は。

ちなみにこの自転車で歩道を通行すると言う行為は、日本以外の先進国では歩行者を脅かす非常識な行為と見做されていますので、欧米でレンタサイクルを使う場合にはご注意を。






では、取り合えず、余りにも突っ込みどころが満載な提言を見てみましょう。


まず、上にも書いたなぜ自転車を歩道に上げるのか?という根拠の部分から。


ここで、突然ですが小学生の社会科(今は生活科かな?)の問題です。


問:交差点での自転車死亡事故270件のうち、自転車が歩道から交差点に入って起きた死亡事故は155件(57.4%)、車道から交差点に入って起きた事故は115件(42.5%)です。次のうち正しいと思われる事を選びなさい。


?自転車で交差点を渡るのは270件もの死亡事故が起きているのでとても危険である。

?自転車で交差点に入るときは、どちらかといえば車道から入った方が安全である。

?自転車で交差点に入るときの事故の割合は、車道から入るものが42.5%を占めており、車道から入る方が危険である。


さて、正解はどれでしょう?

“「自転車の安全利用の促進に関する提言」について”の「提言」というファイルの17ページ下部によると、


「我が国の自転車対車両の死亡事故では、歩車道が分離されている道路から進入した交差点事故270件の約43%(115件)が車道から進入して発生した事故であり(表10)、歩車道が分離されている道路での単路の事故(自転車が横断中の事故を除く。)114件のうち74%(84件)が車道での事故であった(表11)」


だそうです。なんと、自転車対策検討懇談会の出した正解は?なのです。普通に見たら?もしくは、どちらかが危険とは言えないでしょ。




そして、「歩車道が分離されている・・・」以降の後段の部分は、書き直すと交差点以外で車と自転車がぶつかった事故の74%は車道で起こっているということです。

疋田氏も突っ込んでましたが、車は普通車道に居るんだから、そりゃそうですよね。

むしろ26%が歩道とかで車とぶつかってる方がびっくりでしょ。多分、駐車場の入り口とかだろうけど。。。


ちなみに「資料」というPDFファイルの資料8(疋田氏の裏話によると、自転車擁護派の委員が頑張って提言資料に盛り込んだもの)を見ると、アメリカのやカナダでの複数の指摘として、自転車で歩道を走ると、自動車から見え難くなるために車道を走るよりもむしろ危険であるという指摘が載っています。

日本でも自転車の死亡事故で多数を占めるのは交差点での出会い頭です。出会い頭の事故が車から見えてる車道を走ってる場合と、間に色々な物がある歩道を走っている場合のどちらに多いかは普通に考えたら分かるでしょうし、車を運転する人ならどちらと出会い頭にぶつかりそうになるのか経験的にもわかるのでは(おいらは免許ないので推測だけど・・・)。




さらにこの表であげられてる数字には小細工があって、交差点での事故数自体は、車道から入った方318件で歩道から入った事故数が115件と、一見車道から入った事故数の方が多くなってるんだよね。


でも、よく見ると歩道から入った事故115件のうち死亡事故が115件になってるんです。


自転車で歩道から交差点に入って事故に遭うと100%死亡するそうです。。。


有り得ないでしょ・・・。


どう考えても、歩道から入った事故の場合は、死亡事故以外はカウントしてないんだけど、それを何の注意書きもなしに、事故数の比較として、死亡事故以外も含めてる車道から入った時の事故数と比較した表を作ってるの。。。


これは明らかに意図的に車道から入った時の方が事故が多いですよって見せかけようとしてるでしょ。。。

提言というPDFファイルの17ページ下部の表10だけでも見てごらん、非常に紛らわしい表になってるから。。。




他にも“「自転車の安全利用の促進に関する提言」について”の提言の4ページに、交通事故で事故から30日以内に亡くなった人の割合を歩行者、自転車、乗用車、バイク、その他に分けてグラフ化しているデータがあるのですが、その説明として、


「平成17年の自転車乗用中の30日以内死者は1,105人で、全死者に占める割合は13.9%である。状態別の30日以内死者数の割合を欧米諸国と比較すると図5のとおりであり、各国の交通分担率等を反映して、それぞれの比率は様々であるが、我が国の自転車乗用中死者の割合は、欧米諸国のそれに比べてかなり高いといえる。」


という文章がついています。

一見、上の文だけ読むと正しそうですが、グラフを見ると


欧米では

乗用車:50〜60%

歩行者:10〜15%が多い(注:イギリスは欧米でも多く20%を越えている)

自転車:3〜8%程度が多い(注:オランダはもっと多く、アメリカは少ない)


に対して


日本では

乗用車:25%

歩行者:30%

自転車:14%

となっています。


これらを総合すると言えることは、日本では「単に自転車事故での死亡者割合が多い」と言うよりは、「自動車の死亡者割合が少なく、交通弱者(歩行者・自転車)の死亡者割合が多い」ということではないかな。


日本では自動車の運転マナーが悪い等の理由で、交通弱者が死亡する事故が多いのか、自動車同士の死亡事故が少ないために結果的にこういう数字になっているのかは、このデータからは分からないけど、欧米と比べて自転車事故の割合が多いという単純な結論を出すには少し無理があるでしょ。。。








で、これらの状況を踏まえて、


「こうした我が国の事故実態や道路実態、更に今後の高齢化社会の進展等を考慮すると、我が国において自転車を一律に車道通行とすることは現実的ではなく、車道通行を原則としつつ、一定の場合に歩道での通行を認める現行制度の考え方を今後も基本的に維持することが適当と考えられる。」


と提言の論理は展開して行きます。


えっと、最初に指摘していた対歩行者の事故の増加はどこに行ったんでしょうか?


「対歩行者の事故が急増」してて、「対自動車の事故に関しては資料のデータ上では余り差はなく、歩道を走っての事故の方が少し多い」、そして「歩道を走ってる方が危ないという指摘がある」と来れば、結論は普通「自転車は車道を走りましょう。」じゃないの?

それを「現状維持」とは、完全に結論先にありきの論理でしょ。しかも、根拠の後付けすら出来てないよね。




で、当然の疑問として、現状で自転車は歩道を走ってて、それによる対歩行者の事故も増えてるのに何でわざわざこんな強引な論理展開で、自転車が歩道を走る現状を維持すべきと言ってるのか?また、何で自転車乗りがこんな法律に反発しているのか?というのがあるよね。


それは、この提言の21ページ、自転車の走行環境の整備のあり方の(4)に


「(4)上記の環境整備に当たっては、

○ 自転車道や車道における自転車の走行環境の整備状況に応じ、自転車歩道通行可の規制を解除すること

○ 自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること

など、個々の道路について交通環境の変化に応じた交通規制を実施するよう配慮する必要がある。」


という、文が盛り込まれているのがミソなのです。


問題なのは二つ目の


「自転車が車道を通行するのが特に危険な場合」


ってどういう基準で判定するの?って話です。


実は疋田氏の裏話にも、この部分がこの「提言→法改正」の一番の目的だと指摘されてます。

と、言うのも、この審議会の中心メンバーである警察庁官僚とそのOBと言うのが、以前に「自転車車道通行禁止法案」と言うのを提出しようとして、自転車業界の猛反発を買った人達らしいのです。


その人達が再び、「自転車が特に危険な道路を指定して、自転車を車道から締め出そう」というのが法案の一番の趣旨だと言うのです。


確かに、それ以外の部分って、子供のヘルメット着用が義務化(するのかな?)以外は、何度も言われてるような自転車マナーの改善とか、歩道通行が法的に例外だったのを合法に変えたりで、実際には現状維持だもんね。。。


そう考えると確かに、ここまで強引な論理展開で歩道通行を可にするのも理解できます。

歩道通行が可にならなきゃ、車道通行を禁止にできないものね。。。


まず、基本的な話として、「自転車が車道を走ると危険だから車道を走るな」と言う論理は、そうなると「自転車の多い歩道を、歩行者が歩くのは危険だから、歩行者は歩道は歩くな」と言う論理ではないの?じゃあ、歩行者はどこに行きましょうか???


この場合、弱者優先という交通ルールの基本はどこに行ったのでしょうか?


普通は、「歩道に自転車が多くて歩行者が危険ならば、自転車は歩道を走るな」とするべきだし、「走るにしてもゆっくりと走れ」とするべきでしょ?

同様に「自動車が車道で自転車とぶつからない為には、自転車のスペースに自動車が入るな(分離した自転車道を作るとか、路肩の違法駐車を無くすとか、自動車からの非常識な幅よせにはペナルティを設けるとかね)」とするべきだし、そうでないなら「自転車が居る時はゆっくり走る」とするべきではないの?


欧米のルールなんかは基本的に交通弱者優先で出来てるし、その方が合理的でしょ。


更に言えば、おいらの自転車なんか20〜30キロくらいは普通に出るのに、歩道なんか走れないでしょ。。。

歩行者にぶつけたら大怪我させるし、歩行者が居なくても出会い頭の衝突が怖いからね。

そういう自転車は街中では乗るなってことなのでしょうか???

普通に現状で車道を走っていても、ごくたまにはマナーの悪いドライバーに幅よせくらう事はあるけど、特には問題ないのに酷い話でない???


さてさて、この滅茶苦茶な論理展開の提言。一体どうなるのでしょうか