気まぐれ日記

更新は本当に気まぐれです。主にtwitterに書くには長いなと思ったネタを書きます。

映画:不都合な真実


不都合な真実 (このリンク先は音が出ます)を見てきた。


不都合な真実 (音が出ないページ)


感想としてはこの映画はドキュメンタリー映画というよりは、とても質の良い大学の講義を受けているような感じ。

アメリカの一流政治家だけあって、非常に話が上手いです。

理路整然としていてとても分かり易いし、ジョークを入れて肩の力を抜かせるタイミングも非常に上手いです。

マルチメディアによる映像を駆使した分かり易い講義のあり方は、未来の大学の講義の目指すべき一つの姿かもしれないと思わせます。

データを基に分かりやすく語る事に務めていて、この手の映画にありがちな力の入りすぎたメッセージが出てくることもなく、とても良い授業です。


環境問題に関心のある人なら一度は見るべきだと断言できる映画です。

全然、予備知識がなくても直感的に分かかるようにできていますので、特に興味はあるけれど、詳しくはないと言う人には最良の入門になるでしょう。

ある程度詳しいと思っている人にとっても、実際にビジュアルで見るととてもショッキングです。

環境系の基礎授業を受けた事のある身としては、たった96分の講義でここまで素晴らしい授業が出来るものかと感心する出来栄えです。


ここからは少しネタバレになるけど、

映画は一般市民向けの素晴らしい講義であるとともに、石油業界へのメッセージにもなっています。

中でもゴア氏の実家が煙草を伝統的に栽培していたが、10代から喫煙をしていたゴア氏の姉が、肺ガンで死亡したことをきっかけに栽培を止めたというエピソードは、石油業界の関係者へと送られたメッセージでしょう。


「タバコ栽培を続ける為に言ってきたどんな自己弁護も、姉が死んだ後ではただ虚しいだけだった。」(うろ覚えだけど…)


自らの家族にまつわる体験に基づいているだけにとても力の強いメッセージです。




また、映画の中で強調されていた事実を一つ。

映画を見ない人にも知っていて欲しい事なので。


地球温暖化は氷河期と間氷期(温暖な期間)を繰り返してきた地球の自然な変化によるものであるという説は、とても良く知られていると思うけど、これは現在の温暖化には全く当てはまりません。

氷床に閉じ込められた大気を分析した気候変動に関する政府間パネルIPCC)の最新の分析結果(2007年2月2日発表)によると、過去約65万年間、氷河期と間氷期を繰り返している間の二酸化炭素濃度は180〜300ppmの範囲ですが2005年の二酸化炭素濃度は379ppmです。


データ参照元気象庁 | IPCC 第4次評価報告書


上のリンクから報告書の2ページ目にあるグラフを見てもらえば分かりますが、明らかなる異常値です。自然の範囲内と考えるのは不自然なレベルで。


では、なぜ自然変化説が出ているのか?


この映画の中に興味深い話があります。

サイエンス・マガジンが2004年に、専門家による気候変化に関する論文を調査したところ(全論文中の10%を抽出し調査)、928の論文が地球温暖化を指摘しているのに対し、否定したものは0でした。

しかしマスメディアに取り上げられた記述(おそらく米メディアと思われる)を調査したところ、53%は温暖化は立証されていないと記述しているそうです。


マスメディアは正しい情報を流すとは限らない。メディアリテラシーの最初の一歩ですが、この問題は環境問題にも深く関わっているようです。






もう一つ関連して海面上昇の話を。

上のIPCC第4次評価報告書によると100年後の海面上昇は今後が最良のシナリオで進んで0.18〜0.38m、最悪のシナリオで0.26〜0.59mとなっています。


あれ、少ないと思われた人も多いでしょうが、気温上昇にともなう氷床の崩壊はまだ良く分かっていない部分が多く、急速な力学的崩壊の影響を除いたデータです。

報告書では急速な力学的崩壊も起きる可能性が指摘されていますが、よく分かっていない為、数値の予測が出来ないのでデータには含まれていません。

ちなみにグリーンランドの氷床が全部解けると、その影響だけで7mの海面上昇が起こることが指摘されています。


参考に過去の間氷期の海面上昇を見てみると、12万5千年前には4〜6mの海面上昇が起きています。

もちろん、これは上に書いた過去65万年以内の出来事であり、現在の二酸化炭素濃度はこの時よりも更に高くなっています。

と、言う事はこれも、十分に起こりうる数字ではあるのでないでしょうか。


これを踏まえて、Flood Mapsを見てみて下さい。

倍率を上げたり、上昇する水位を変えると、海面上昇がどういう事がよく分かると思います。

6mも上がれば、日本の3大都市圏はかなりの部分が水の中です。

江戸川沿いは東京どころか埼玉まで沈みます。

世界を見てみてもかなりの地域が沈みます。


海面上昇が起きても海岸に堤防を作れば良いじゃないかと考える人も居るかも知れません。

しかし、忘れてはいけないのは同時に気候変動が起きると言う事です。

ここ数年を見ても分かるように、気候変動の結果、一度の雪や雨で集中して降る量がかなり増えます。大型の台風も来るでしょう。


さて、その結果、海面マイナス数mの地域はどうなるでしょう。


平地の都市に住む人達が二酸化炭素を大量に出す生活をすると言うのは、とても馬鹿げたことだと思いませんか?




少し話は蛇足になったかも知れませんが、とてもよい映画です。

96分という時間の使い方としてはとてもよい部類に入るのではないでしょうか。

是非、見てみて下さい。